Altar and Sacrifice
傷口がしみる痛みで目が覚めた。
見覚えのない白い石造りの天井と壁が見える。簡易だが清潔にした白いシーツの寝台の上に私はいる。光が射しているアーチ状の形をした窓の方を見ると昼のようだ。窓の近くに木製のチェストがあり、さらに部屋の奥の方を見ると蝋燭が灯っている祭壇があった。
祭壇の女神像の周りには花が備えられている。部屋は広い方だが、壁に沿って置かれた本や何かしらの雑貨が置かれた棚と寝台で空間を圧迫している。
どれも年期が入っている。空間が圧迫している原因は部屋の奥の祭壇が原因のようだ。
仰向けのまま手を動かして、胸の傷を触ろうとした。綿で出来たベージュ色の布の寝間着を着せられている。服を捲り傷口を触った。
「んっ……」
痛みで思わず声が出てしまった。傷口は塞がっていない。誰かに抉られてはいるかを確認した。生々しい感触が手先に残る。 痛みで足をもぞもぞと動かしてしまう。
「傷口を触ると悪化しますよ」
話しかけられたので声の方を見る。
「ジェーン……なのか?」
ジェーンと似ている容姿。
だが違う。
ジェーンは兵士で、目の前にいる彼女は袖の二の腕にガラスの透明なビジューを装飾をほどこされた黒いロングワンピースを着ている。僧侶か。
「傷口を触るぐらいに会いたい人?」
「もう、いないがね」
私はもう一度、傷口を触った。
「失礼。口が過ぎました。傷口を抉るのはよしておきます。それと……」
ジェーン・ドゥに似た僧侶は怪訝そうな顔をしながら、部屋の奥の祭壇を少し見てから、また私の顔を見た。
「あなた兵士ですのでここに居られるのは傷が癒えるまでです。癒えたら出て行って下さい」
「癒えてなくても出ていくつもりだ。私の持ち物はどこだ? 今すぐに出ていく」
それだったら私を最初から見放せばよかろう。上半身を起こし、部屋のあたりを見回す。自分の剣が見つからない。服も見当たらない。横目で黒い服の女を見た。表情も変えずにいる無愛想な女だ。
寝台から降りようとしたら、僧侶は私を勢い良く寝台へ押し返した。私は寝台の上で倒れた。黒い服の女は仰向けの私を上に胸の傷口に耳を下にして頭を乗せた。
「……私が寝ている間にそうすればよかろう。溜まってるのか? 動かないから好きにしろ」
諦めでため息をついた。
着替えさせたならこの体の傷痕を見ているはずで何も思わないのだろうか。物好きもいるものだ。
女は寝間着の裾を腹に優しく這わせながら捲った。手先が冷たく、傷痕に優しい。腹がはだけ、乳房に布が差し掛かるところで胸の真ん中あたりの傷口に手が止まった。 手が冷たい。傷口から手を動かさない。
「どうした? 萎えたか?」
女は頭を傷口から、ゆっくり私の顔に視線を向けた。
「……兵士さん、あなたの中のは、誰のですか?」
「私の剣を持ってくるか……」
女を右側に勢い良く押し退けて一回、回した後、女の腕を掴んで体の上に素早く股がって乗った。動けないように。
「一緒に寝るかのどちらかで教える」
服をひん剥かれたおかげで格好がつかない。喪服の女は表情をひとつたりとも変えない喪服の女は息を吐き、それから私の目を見た。
「持ち物を持ってこい。それからだ」